そしてトレヤが大洋だ。彼女は解放されたのではない−すでに解放されていたのだから。むしろ、解放されたのはぼくのほうなのだ。彼女に尽くすという簡単な方法で。」
これは、トランスパーソナル心理学の分野で多くの著作があり天才とも言われるケン・ウィルバーが、彼の妻トレヤとの出会いから死までを綴った本、「グレース&グリット」からの一節。トレヤの死後、ケンが大きな気づきとともに語ったことばです。
知り合ったとたん恋に落ち、まもなく結婚した二人を待っていたのは、トレヤが悪性の乳ガンに冒されているという宣告でした。
そのときケンはトレヤにいいます。
「長い間、何度も生まれ変わりを繰り返して、君を探し続けてきたんだ。君に会えてうれしい。このこと(乳ガンのこと)とは関係がない。君を手放したりしないよ。いつでもそばにいる。君は壊れ物なんかじゃなくて、ぼくの妻、ソウルメイト、ぼくの人生の希望なんだよ。」
病巣の摘出手術、化学療法、放射線療法。そして、再発。
ありとあらゆる療法を訪ねて、ヨーロッパまで足を運ぶ二人。
一般にはうさんくさいものとしてみられていた代替療法にも取り組みますが、トレヤの乳ガンは再発を繰り返します。
その一方で、二人はチベット仏教の老師に師事し、瞑想を中心とする修行に取り組んでいきます。なかでもトレヤが熱中したのが、「トンレン」と言われる他の人々の苦しみに慈悲をもって関わる修行でした。
闘病生活のなかで訪れる夫婦の破綻の危機。感情の行き違い。
にもかかわらず、二人は葛藤を乗り越え、スピリチュアルな深い関係を築き上げていきます。
発病から5年後、トレヤは亡くなりました。
他人から恋人へ。夫婦から病人と介護者へ。さらに、死者と生き残った者へ。5年の間に二人の関係は変化していきました。
最後に、死者は生き残った者を「解放」し、人生の意味と人を愛することのほんとうの意味を教えてくれたのです。
書名のグレース&グリットとは、恩寵と勇気という意味。
たぐいまれな愛の物語。さまざまなガン療法の記録集。瞑想と悟りについての本。病者と介護者の関係。
この本はいろいろな読み方ができます。どんな読み方をしても、そこには感動と気づきがあると思います。
人は死から多くを学びます。身近な人の死であればなおさらのこと。
そうしてみると、もっとも身近な自分自身の死を見つめることこそ、いちばんの学びの機会なのでしょうか。
このことばはこの本から-----------------------------------